物語と実用性

国語科では物語や小説を文学教材として扱います。文学の学びは、教養や人間観の理解や文化継承のためと位置づけられ、生活をより豊かにするものと認識されることはあっても、多くの人の仕事には直結せず実用とは異なる文脈にあるとみなされる場合が多いように感じます。

「文学をなぜ学校で・国語科で学ぶのですか?」と聞かれることも少なくないです。その問いへの回答として、「生活をより豊かにするためです」と私自身が答えることもあります。

 

けれど、私はそれだけではなく、「実用的な学びの意義もあります」と答えるようにしています。

多くの物語には共通する構造を見出すことができます。山本茂喜氏(『魔法の「ストーリーマップ」で国語の授業づくり』等)は物語論の研究を踏まえて、その構造を「問題解決構造」として捉えて、国語教育への応用を図っています。

 

「問題解決構造」とはおおむね次のようにまとめられます。

「はじめに何かを失うところ(あるいは何かが足りていない状態)から物語がスタートする。そして、その欠如しているものを埋めるために、乗り越えなければならない問題に遭遇する。そして、何らかの手がかりを得て、その問題を解決し、失ったものの代わりを手に入れる。」

 

これだけではわかりづらいので、有名な「マリオ」を「問題解決構造」に沿ってあらすじをまとめてみることにします。

「はじめにクッパにピーチ姫がさらわれるところから「マリオ」の物語がスタートする。ピーチ姫を取り戻すために、マリオはクッパをボスとする様々な敵に立ち向かうという問題を乗り越えなければならない。そうした問題を、キノコやスターといったアイテム等を活用しながら能力を高め、クッパを倒すことで解決し、ピーチ姫を取り戻す。」

 

このような構造は他の物語にも共通して見出すことができます。

さて、これがどのように実用に結び付くのでしょうか。

実用の例の一つとして、ここでは入社試験で自己PRをするということを考えてみましょう。自分を価値ある人物と売り出す行為と自己PRを捉えれば実用的と言えるでしょう。

 

私が御社にとって価値ある存在であると伝えるために、私はすごいのですとただ伝えても相手にその価値は伝わらないでしょう。

野球の大会で優勝した等という実績を伝えれば、説得力は高まります。しかし、その実績は自身の力によるものなのかという疑問は残ります。それに野球の能力は高いかもしれないが、仕事に生かせる能力を身につけているのかは不明です。

 

そこで、「問題解決構造」を踏まえて、自分自身の経験を物語ると説得力が高まります。

「はじめはなかなか練習が勝利に結びつきませんでした。その理由として、チームメイトとのコミュニケーションが少ないことが考えられました。そこで、チームの連携を高めるために、コミュニケーションに関する知識を得たり、親しい友人に相談しながら、コミュニケーションの機会を増やすようにしました。その結果、練習の質が高まり、勝利が増えるようになっていきました。」

 

このような語りは、物語の構造に従っているので、何をどのように成し遂げられる人物であるのかを聞いている側にとって理解しやすく、魅力が伝わりやすくなります。

 

このような物語の構造を実用的に活用できるようにすることも、国語科で文学を教える意義・役割の一つと考えています。